【2021年度介護報酬改定】訪問看護で押さえるべきポイント【退院当日の訪問看護】
こんにちは。訪問看護ステーションのぞみです。
今回は2021年1月18日第199回社会保障審議会(介護給付分科会)で発表された令和3年度の介護報酬改定の見直し事項のうち、訪問看護にかかわるポイントのひとつ「退院当日の訪問看護」について解説します。
2.退院当日の訪問看護
3.看護体制強化加算の見直し
4.サービス提供体制強化加算の見直し
退院日に自宅で訪問看護を受けることに何か変更があったんでしょうか?
読者さん
はい。そうなんです。これまで介護保険では人工肛門の管理をされている方など一定の条件があれば、退院当日の訪問看護が可能でした。しかし条件に該当しない方への退院当日の訪問看護もきちんと「訪問看護費」として算定できるかが課題にあがっていて、今回そこに変更が加わりました。
管理者前田
ご利用者にとっては、病院や施設を退院(退所)した当日に訪問看護が受けられることで、今後の生活への不安の解消や体調・服薬の管理、医療的なケア、環境整備などの支援が受けられるメリットがあります。
それによって在宅生活にスムーズに移行できる可能性がたかまり、退院してすぐの再入院などを防ぐこともできます。
では、退院当日の訪問看護についてどんな変更が加わったのか解説をしていきます。
主治医が必要と認めた利用者も退院当日の訪問看護が可能になった
今回の介護報酬改定によって人工肛門の管理が必要なかたなど「特別管理加算」の対象者にくわえて、主治医が必要とみとめた利用者も退院(退所)した当日の訪問看護が受けられるようになりました。
少し難しい部分ですが、特別管理加算の対象者とは以下のような場合をいいます。
・在宅悪性腫瘍患者指導管理もしくは在宅気管切開患者指導管理を受けている状態または気管カニューレもしくは留置カテーテルを使用している状態にある者
・以下のいずれかを受けている状態にある者
在宅自己腹膜灌流指導管理
在宅血液透析指導管理
在宅酸素療法指導管理
在宅中心静脈栄養法指導管理
在宅成分栄養経管栄養法指導管理
在宅自己導尿指導管理
在宅特別陽圧呼吸療法指導管理
在宅自己疼痛管理指導管理
在宅肺高血圧症患者指導管理
・人工肛門または人工膀胱を設置している状態にある者
・真皮を超える褥瘡の状態にある者
・在宅患者訪問点滴注射管理指導料を算定している者(点滴注射を週3日以上行う必要がある)
人工肛門の管理が必要なかた、真皮を超える床ずれ(褥瘡)のあるかた、点滴を週3回以上必要なかたなど医療的ケアがとくに必要な場合「特別管理加算の対象者」として退院(退所)した日に訪問看護が受けられるようになっていたわけです。
しかし特別管理加算の対象者に該当しない方でも、退院に際して服薬の管理や自宅環境の整備など、訪問看護師の支援が必要な方も少なくありません。
そのため介護報酬改定では『退院当日の訪問看護について、利用者のニーズに対応し在宅での療養環境を早期に整える観点から、主治の医師が必要と認める場合は算定を可能とする』こととなり、退院当日の訪問看護が受けられる対象者が広がったのです。
退院して色々と不安を抱える利用者にとっては、メリットのある改定だったんですね。
読者さん
ちなみに退院・退所当日の訪問看護は、短期入所療養介護(ショートステイ)を利用した方にも当てはまります。
退院当日の訪問看護はなぜ原則できなかったの?
退院当日は入院期間中とみなされるため、特別管理加算の対象者以外の訪問看護は原則できませんでした。
仮に、退院当日の利用者の体調が自宅で急に悪化して必要に応じて訪問看護をおこなったとしても、訪問看護費として算定できなかった状況がありました。
そうなると訪問看護をしたくても退院当日の訪問看護費が請求できないため、訪問が困難になるというケースも生じてしまいます。
状況によって、退院当日に訪問看護をしたくてもできないジレンマが少なからずあったわけです。
医療保険の場合は?【退院翌日以降に退院支援指導加算が算定できる】
ここまでは介護保険の話でしたが、一方で医療保険ではどうなっているのでしょうか?
医療保険では退院日の訪問は、一定の条件を満たす利用者に対して「退院支援指導加算」という形で、退院日の訪問看護を後日算定することができます。
医療保険でも退院日に訪問できる対象者は、以下のように決まっています。
・「厚生労働大臣が定める状態等」に該当する者(別表第8)
・退院日の訪問看護が必要と認められた者
医療保険では介護保険とちがい、「厚生労働大臣が定める疾病等に該当する者」「退院日の訪問看護が必要と認められた者」も含まれ、対象者の範囲が広くなっています。
・末期の悪性腫瘍
・多発性硬化症
・重症筋無力症
・スモン
・筋萎縮性側索硬化症
・脊髄小脳変性症
・ハンチントン病
・進行性筋ジストロフィー症
・パーキンソン病関連疾患
・多系統萎縮症
・ブリオン病
・亜急性硬化性全脳炎
・ライソゾーム病
・副腎白質ジストロフィー
・脊髄性筋萎縮症
・球脊髄性筋萎縮症
・慢性炎症性脱髄性多発神経炎
・後天性免疫不全症候群
・頸髄損傷
・人工呼吸器を使用している状態
医療保険も原則として退院当日の訪問看護費は算定できないものの、このような例外をもうけて次の訪問時に退院当日の訪問看護費用が請求できる仕組みになっています。
しかし退院当日に訪問したあと急な病状の変化などで、次回の訪問をする前に再入院する利用者の方も少なくなく、課題は残されているといえそうです。
退院当日の訪問看護がなぜ課題にあがっていたの?
これまで、介護保険の退院(退所)日の訪問看護のとりあつかいについて、以下ような意見があがっていました。
・医療保険か介護保険かに関わらず、退院当日の訪問看護に対して、適切に対応できるようにすべきではないか。
・退院当日の訪問については、医療と介護の役割分担を検討して欲しい。
・退院当日の利用者は、体調が万全でなく、痛みや認知症の周辺症状への対応など訪問看護師が早期に整える必要がある場合があり、独居や介護する人がいない方などに訪問している例がある。医療保険での訪問は、次回の訪問時につける加算であり、すぐに具合が悪くなって入院してしまって加算がとれないなどの問題もある。
このように、
・退院して急な病状の変化に対応する必要がある
・退院準備が不十分なまま退院してしまう場合もある
・一人暮らしの高齢者の療養環境を整える必要がある
など、退院後なるべく早い段階で訪問看護師の支援が求められるケースも多くあり、必要な支援が受けられず再入院や再入所となることをふせぐ必要性が指摘されていました。
この課題を解決するために、介護報酬改定で退院当日の訪問看護のとりあつかいについて議論され改定がおこなわれたのです。
退院当日の訪問看護の実際【Webアンケート】
日本訪問看護財団がおこなった2022年度診療報酬改定の要望に関するWebアンケート調査では、退院当日の訪問看護について(複数回答)以下のような回答がありました。
・複数回訪問した 35.5%
実施したケア内容:
・医療処置 68.2%で最も多い
・療養上の指導 65.9%
引用)公益財団法人 日本訪問看護財団「日本訪問看護財団会員調査 令和4年度診療報酬改定の要望に関するWebアンケート調査報告書」
退院当日の訪問看護の実際では、とくに医療的なケアを必要な方に対して医療処置や環境整備、本人や家族へのアドバイスなど1回の訪問が長時間に及んだり、1日に何度も訪問する必要がある場合も少なくありません。
主治医が必要と認めた場合も退院当日の訪問看護が算定できることは大きな改定になりましたが、訪問看護実施内容やかかる時間に関しての適切な評価が今後さらに必要になるともいえます。
【退院日の訪問看護】在宅療養への移行に重要
今回は、2021年度介護報酬改定の訪問看護にかかわるポイントのうち「退院当日の訪問看護」について内容を解説しました。
体調がまだ万全でないなど療養生活への不安がある介護保険のご利用者に対して、退院して早い段階で訪問看護師が支援をおこなうことが、より安心して在宅生活をスタートできる大きな一因にもなります。
今回の改定では介護保険のご利用者やご家族、訪問看護をおこなう側にとってもメリットある改定といえます。
訪問看護ステーションのぞみでも円滑に在宅での療養生活がはじめられるように、より積極的に退院・退所日の訪問看護に取り組んでいきたいと思います。
管理者前田
訪問看護ステーションのぞみ
参考サイト
社保審ー介護給付費分科会「訪問看護の報酬・基準について」