人生の最終段階を迎えた人を支える【エンドオブライフ・ケア】とは?
こんにちは。訪問看護ステーションのぞみです。(@houkan_nozomi)
さて「エンドオブライフ・ケア」という言葉や概念をご存知でしょうか。
エンドオブライフとは「人生の最終段階」の意味があり、エンドオブライフ・ケアとは人生の最終段階を迎えた人への支援をさします。エンドオブライフ・ケアはこれまで「終末期医療」と呼ばれてきたケアや概念のひとつであるといえます。
訪問看護ステーションのぞみでも自宅で最期を迎える方の看護や介護を行ってきましたが、ここでもう一度「エンドオブライフ(人生の最終段階)・ケア」とは何かについてまとめてみたいと思います。
エンドオブライフ・ケアとは?
「エンドオブライフ(End-Of-Life)」とは直訳すると「人生の最終段階」という意味であり、「エンドオブライフ・ケア(End-Of-Life Care)」は「人生の最終段階を迎えた人やその家族を支えるケア」のことを指します。
つまりどのようにして人生の最終段階を迎えるのか、本人や家族の希望や選択を尊重する観点から医療・看護・介護・行政などの面から支援を行うケアを広く指しているといえるでしょう。
このエンドオブライフ・ケアという言葉自体は、ケアを提供する側でもまだ深く浸透している言葉ではありません。
「エンドオブライフ・ケア」の捉え方も関連する協会や団体により表現方法は異なりますが、根本に流れる概念は同じです。
以下にエンドオブライフ・ケアの説明の主なものをご紹介しましょう。
誰もがいつかは訪れるいのちのおわりについて考える人が、最期までその人らしく生きることができるように支援することであり、年齢や健康状態や診断名を問わない。
体のつらさ、気持ちのつらさ、病気や体力の低下のために自分の役割が果たせなくなった時のつらさ、年を重ねるにつれ自分で判断することが難しくなった時のつらさ、自分のいのちはもう最期かもしれないと感じる時のつらさ、生活や医療における大切な選択をする時のつらさになど、いろいろなつらさに対してかかわり、いのちや生活の質を高めることを目指すケアをいう。
引用;公益社団法人長寿科学振興財団
さらに千葉大学大学院看護学研究科エンド・オブ・ライフケア看護学では、エンド・オブ・ライフケアを以下のように定義しています。
診断名、健康状態、年齢に関わらず、差し迫った死、あるいはいつかは来る死について考える人が、生が終わる時まで最善の生を生きることができるように支援すること
引用;千葉大学大学院看護学研究科エンド・オブ・ライフケア看護学
さらにエンド・オブ・ライフケアについて病気の側面からだけではなく人の「生」の面から考え、周囲にいる大切な人と話し合える文化が大切だとも説いています。
老いや病いを抱えながら地域社会で生活し続ける人々の暮らし方、家族との関係性や生や死に関する価値観、社会規範や文化とも関連した、新たな生き方の探求であり、新たな医療提供の在り方の創造ともいえる。
引用;千葉大学大学院看護学研究科エンド・オブ・ライフケア看護学
エンドオブライフ・ケアに対する定義の仕方や考え方は様々であっても、訪問看護ステーションのぞみでもこれまで行ってきた「終末期ケア」や「ターミナルケア」として捉えてきたケアの在り方と根本は変わりません。
「どのような疾患や障害を持っていても、どのような生活を送っていたとしても本人がどんな人生の最期を過ごしたいと思っているのか、家族はどう支えたいと思っているのか」、これらをケアの中心に置いて私たち医療や介護、行政がどう支援していけるのかを考えて実践してきました。
最近ではこのように「エンドオブライフ・ケア」という言葉を使い、もっと広い視点から患者さんの生活や人生、関わるご家族に焦点を当てたケアのあり方を追求する必要性を強く感じています。
本人しか分からない心や体の痛みを最大限理解しようと努力する
人生の最期を迎える人のケアに関わるとこんな思いを吐露される方もいます。
「この痛みや苦しみを誰にも分かってもらえない」
「みんなに迷惑をかけたくない」
「どうして自分だけこんな目に合うのか」
たしかに病気や障害を持つつらさは本人でしか分かり得ない部分もあり、ケアを提供する側だけでなく一番身近にいる家族でさえも本当の苦しみをすべて理解することは難しいです。
なかには「人につらさを伝えても分かってもらえないから言っても仕方ない」と諦めてしまう人もいるかもしれません。
しかし医療者として目の前にいる人の心や体の痛みを最大限理解しようと努力することが何よりも大切です。
そのために体のケアだけでなく「本人の思いや訴えに耳を傾けて話を聞く」ことで、本人や家族が「自分や自分たちの苦しみを理解してくれる人がいる」と少しでも思ってもらえるような関わり方が求められていると感じています。
なぜエンドオブライフ・ケアが大切なのか
日本が超高齢社会に突入していくことが言われて久しいですが、団塊世代すべてが後期高齢者となる2025年には「超高齢・少子化・多死時代」になると言われています。
これからますます人口が減っていく中で高齢者世代は増えていき、2035年には高齢者の割合は3人に1人になると予測されています。
さらに近い将来である2025年には年間の死亡率が150万人を超えるとされ、今後病院で人生の最期を迎えることも病院のキャパシティの問題などから難しくなるでしょう。
とはいえ人生の最期を病院以外の自宅や施設など、地域で安心して過ごせる環境が日本のどの地域でも整っているかと言えばそうではありません。
だからこそ今後訪れる未来の状況に備えて、各地域において自宅や介護施設などで人生の最終段階を安心して迎えることを支援するケアや体制を整えていく必要があり、それがエンドオブライフ・ケアの大切さに注目が集まる理由となっています。
エンドオブライフ・ケアが受けられる対象や期間は?
ではエンドオブライフ・ケアの対象はどのような疾患や障害を持った人たちなのでしょうか。
上述のようにエンドオブライフ・ケアの対象になる人には特定の疾患や障害はありません。
認知症、がん、高齢者、慢性呼吸器疾患、心疾患、難病…など診断名に関係なく受けられるケアであり、「診断がついて自分の命について意識し始めたときから提供されるケア」ともいわれています。
エンドオブライフ・ケアが提供される期間も体の状態や取り巻く環境によって様々です。
ある人は年単位になることもあれば、ある人は1ヶ月、1週間、日にち単位になることもあります。このように期間も決められたものではなく、自分の人生の最期を意識してから最期を迎えるまでに提供されるケアであるといえるでしょう。
エンドオブライフ・ケアの実践者に求められること
エンドオブライフ・ケアを実践する医療・介護者に求められていることとして以下のようなものが挙げられます。
・人生の最終段階における体や心の経過を把握する
・疼痛や症状を緩和・マネジメントする
・本人や家族の意思決定を支援する
・どのような治療や対処が選択できるか提示する
・家族の心身の健康にも配慮する
・本人や家族にとって人生で何が最も大切なのかを焦点化する
・人間として相手を尊重した関わりを持つ
エンドオブライフ・ケアではこれらのような要素を持って医療・介護・行政などが連携して行われるケアです。
とくに本人やご家族とより身近に接する機会が多い看護師に求められるものは多く、いかに本人やご家族の思いや意思を的確に把握して関連機関と共有し、エンドオブライフ・ケアに生かせるのかが重要なポイントとなります。
本人やご家族の思いや意思を具体化するには「アドバンス・ケア・プランニング」を用いることも有効です。
アドバンス・ケア・プランニング「5つの願い(Five Wishes)」
この世界的にも有名な「5つの願い」の冊子はアメリカの法律・終末期医療の専門家などの協力から作成されたもので、人生の最期を意識したときに抱く医療や感情・精神面などに関する願い(リビングウィル・生前遺言)を記せるように助けるものになります。
エンドオブライフ・ケアを実践する側としても、そしてケアを受ける側もこの冊子に書かれた内容を知ることでよりケアに対する理解を深めることができるに違いありません。
「エンドオブライフ・ケア援助士」認定制度もある
エンドオブライフ・ケアの考え方は広がってきており、医療・介護従事者などを対象とした研修も各地で行われています。
一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会では「エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座」を開いており、講座を受講し課題を提出したあとに「エンドオブライフ・ケア援助士」の認定資格を取得することができます。
このエンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座の受講対象者は専門性を問わずすべての人が受講することが可能です。一方でエンドオブライフ・ケア援助士は医療・介護従事者が対象となっていますが、職種や専門性は問われません。
医療従事者に関わらず「人生の最終段階:エンドオブライフ」のケアに貢献したいと考えている人には講座の受講や医療・介護従事者はより専門性を高めるために認定士の資格取得を目指すのも良い学びになるのではないかと思います。
e-ラーニングコースも可能(ただし援助士認定にはスクーリングが必要)となっており、興味のある方は以下のサイトをご覧になってみてください。
まとめ
エンドオブライフ・ケアという言葉や概念は社会に広く知れ渡っているとはまだいえませんが、今後住み慣れた自宅や地域・施設で人生の最期を迎える人が増えていく中でエンドオブライフ・ケアの重要性が高まるに違いありません。
訪問看護ステーションのぞみでも今回取り上げたエンドオブライフ・ケアを訪問診療に関わる医師や関連職種と連携して行っています。
住み慣れた自宅や地域の施設でご利用者やご家族の希望に最大限添えられるように、医師やケアマネ、ヘルパーなどと連携をして本人やご家族が望む最善の選択ができるように今後もサポートをさせていただきたいと思います。
訪問看護についてご質問がありましたら、こちらよりお気軽にお問い合わせください。
訪問看護ステーションのぞみ
参考サイト