自立支援医療(精神通院医療)とはどんな制度なの?
こんにちは。訪問看護ステーションのぞみです。(@houkan_nozomi)
みなさん、「自立支援医療(精神通院医療)」という制度をご存知でしょうか?
精神科に通院している人が継続して治療が受けられるように支援する制度、って聞いたことがあるけど…。実際はどんな制度なんでしょうか?
読者さん
そんな疑問をお持ちの方もいると思います。
自立支援医療(精神通院医療)というのは、精神科の疾患で病院や診療所に通院するときにかかる医療費のうち、利用者本人が自己負担分として支払う費用を公費で負担する制度のことです。
精神科に継続的に通院する利用者の医療費負担を減らし、経済的な不安を軽くすることで、体調をより安定させて治療に専念できる環境をつくるなどの目的があります。
今回は自立支援医療について詳しく解説していきます。
【自立支援医療】医療費の自己負担を軽減する制度
自立支援医療は正式にいうと「心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担を軽くする公費負担医療制度」になります。
この制度は平成18年度に創設され、制度を実施する主体は都道府県や政令指定都市です。
自立支援医療には精神通院医療だけでなく、以下の3つの医療が対象となります。
・精神通院医療:精神科疾患の治療
・更生医療:身体障がいの治療(18歳以上)
・育成医療:身体障がいのある児童(18歳未満)の治療
いずれの医療においても、継続的な治療が受けられるように制度を通じて支援します。
自立支援医療は精神科疾患が対象
自立支援医療は「精神通院医療」とも呼ばれており、精神疾患を抱える人が継続して通院治療が受けられるように支援するものです。
具体的には、通院治療を受けるにあたり指定の病院や診療所の診察や薬局などで処方される薬代の費用、訪問看護で受ける医療の費用が普通は3割負担であるのに対し、その負担が1割まで少なくなります。
しかし継続的に治療を受ける必要がある人にとっては、医療費や薬代が1割負担になっても経済的負担が重くなることもあります。
そこで世帯の所得や精神疾患・治療の内容などによって利用者が支払う自己負担分に上限の額を設けて、上限を超えた分は負担せずによい仕組みとなっているのです。
制度のポイントは「入院」は対象にならないこと、そのほか以下の医療を受けたときも自立支援医療制度の対象外になることです。
例)病院や診療所以外で受けるカウンセリングなど
・精神疾患や精神障害とは関連のない病気の治療費
自立支援医療では、精神疾患の治療を続けている人が通院・デイケア・訪問看護など入院以外の医療を受けた場合に対象になることを押さえておきましょう。
自立支援医療の対象は【精神疾患で継続治療を受ける人】
自立支援医療の対象となる人は制度で定められています。
その対象とはてんかんを含む精神疾患のため、継続的して通院して治療を受ける必要がある人です。
繰り返しますが、病院や診療所に「入院しないで」おこなわれる医療が対象になるため、入院中の人は対象になりません。
対象となる精神科疾患は以下のとおりです。
・統合失調症
・うつ病・躁うつ病などの気分の障害
・精神作用物質による急性中毒またはその依存症
・PTSDなどのストレス関連障害やパニック障害などの不安障害
・心理的発達の障害
・アルツハイマー病型認知症、血管性認知症
・てんかんなど
自立支援医療を受けるには該当する疾患があり「通院による継続的な治療が必要」という医師の判断や診断書が必要になります。
自己負担額には上限がある
最も気になるのが、自立支援医療を受ける人の自己負担額です。
通常、公的な医療保険では医療費負担はおもに3割となっていますが、自立支援医療制度では医療費負担を1割まで軽減することができます。
さらに世帯の所得が一定額未満の人は、ひと月にかかる医療費(1割)の負担が大きくならないように自己負担額に上限がもうけられます。
たとえば、ひと月にかかる医療費の自己負担上限額が「5,000円」であれば、5,000円以上は支払わなくてよいというわけです。
自己負担割合や自己負担額は所得により区分わけされています。
所得区分 | 自己負担割合 | 「重度かつ継続」の場合の上限額 ※2 | |
該当する | 該当しない | ||
生活保護世帯 | 0円 | 0円 | 0円 |
市町村民税が非課税 本人収入80万円以下 |
1割 負担 |
2,500円 | 2,500円 |
市町村民税が非課税 本人収入80万円超 |
1割 負担 |
5,000円 | 5,000円 |
市町村民税が課税 (所得割)3万3,000円未満 |
1割 負担 |
5,000円 | 医療保険の自己負担限度額 |
市町村民税が課税 (所得割)23万5,000円未満 |
1割 負担 |
10,000円 |
医療保険の自己負担限度額 |
市町村民税が課税 (所得割)23万5,000円以上 |
1割 負担 |
20,000円 ※1 |
自立支援医療は対象外 |
(https://www.pref.gunma.jp/07/p11710013.html改編)
※1:市町村民税の課税額が23万5,000円以上の世帯の人が自立支援医療の対象となるのは令和3年3月31日までです。
※2:「重度かつ継続」とは次の項目で説明します。
表にあるように自立支援医療を受けるには、
・生活保護を受けているか
・市町村税が非課税または課税世帯かどうか
・課税所得割の額がどのくらいか
・医療費が高額な治療を長期間受けなければならないかどうか
などがポイントとして挙げられます。
【重度かつ継続】とは何か?
上述の表にあるように、「重度かつ継続」の場合に対する医療には、通常1割となる自己負担分にひと月ごとの上限額が設けられています。
以下に当てはまる方で「継続的に相当額の医療費がかかる」と判断された場合、月にかかる医療費の上限が「2,500円」「5,000円」「10,000円」「20,000円(令和3年3月31日まで)」と決められています。
▶️直近の1年間で高額な治療を続けておこない、公的医療保険の「高額療養費」の支給を4回以上受けた人
▶️ICD-10(WHOがつくる疾患の分類)で次の疾患がある人
・器質性精神障害
(体の病気が原因で生じる精神症状がある、高次脳機能障害・認知症など)
・精神作用物質使用による精神や行動の障害
(アルコール依存症、薬物依存症など)
・統合失調症•統合失調症型障害•妄想性障害
・気分障害
(うつ病、躁うつ病など)
・てんかん
▶️以下の症状を示す精神障害のため計画的で集中的な通院医療が必要と、3年以上の精神医療の経験がある医師によって判断された人
・情動及び行動の障害
・不安及び不穏状態
精神疾患の治療を受けている人が以上のような条件に当てはまる場合には、継続的な通院が必要なことも多いです。
そのため通院治療による経済的な負担を軽減するために医療費や薬代の負担限度額を決めているのです。
自立支援医療で対象になる医療
自立支援医療では、条件に当てはまる人が受ける医療のすべてが対象になるのではありません。
先に説明したように「精神疾患・精神障害、精神障害によって生じた病態(躁状態・抑うつ状態・幻覚妄想・情動障害など)に対して病院や診療所に入院しないで行われる医療」が対象です。
病院や診療所に入院しないで行われる医療には、
・外来通院
・外来で処方された薬
・デイ・ケア
・訪問看護ステーションによる訪問看護
などが含まれます。
つまり、医療機関(通院・デイケア)や薬局、訪問看護ステーションで受ける医療や薬の処方が対象となり、それ以外の医療は自立支援医療の対象ではないということです。
さらに医療を受ける病院や薬局、訪問看護ステーションも自立支援医療機関として指定されている必要があります。
ちなみに訪問看護ステーションのぞみも自立支援医療機関として指定を受けています。
令和3年8月1日時点で、群馬県内で自立支援医療機関に指定されている病院・診療所は196ヵ所、薬局は779ヵ所、訪問看護ステーションは131カ所です。
>>群馬県 自立支援医療制度(指定自立支援医療機関一覧)
都道府県で指定された医療機関で受けた医療以外は自立支援医療の対象にならないことに注意しましょう。
自立支援医療を受けるには申請が必要
自立支援医療を受けるためには都道府県や政令指定都市に申請し、医療券である「自立支援医療受給者証」の発行を受ける必要があります。
申請から利用までの主なポイントを説明します。
①市区町村の窓口で申請する
自立支援医療の申請は市区町村の窓口で行うことができます。
嬬恋村近隣では以下の窓口が担当です。
群馬県内のほかの市町村の問い合わせ窓口は以下の表にまとまっています。(令和3年4月1日時点)
>>群馬県「自立支援医療(精神通院)・精神障害者保健福祉手帳 市町村問合せ窓口一覧」
市町村によって担当窓口の名称などが異なるので、事前に確認が必要です。
②申請に必要な書類を準備する
申請するには準備すべき書類があります。
自治体によって必要な書類が異なる場合があるため、事前に確認してから手続きを行うようにします。
【必要となる主な書類】
・申請書:自立支援医療費(精神通院医療)支給認定申請書
・診断書(精神通院医療):通院している精神科の病院や診療所で指定の様式に記入してもらったもの
・保険証の写し
・世帯の所得状況が確認できる書類(課税状況確認表)
・印鑑
・個人番号カード
・同じ保険に加入している全員分の課税証明書
また、通院中の病院や診療所が「自立支援医療機関」として指定されていないと自立支援医療の対象にならないため、事前に病院や診療所、市町村窓口に確認をしておきます。
窓口で申請すると受給者証が発行されるまで2〜3ヶ月かかりますが、申請した日から自立支援医療を受けることができるようになっています。
③医療を受けた時に受給者証を提示
受給者証が発行されたら受診や薬の処方を受けるとき、訪問看護を受けるときにそのつど医療機関に受給者証を提示します。
原則、受給者証は医療を受ける本人に交付され本人自身が管理することになります。
さらに医療費の自己負担額が決められている対象者には「自己負担上限額管理票」も一緒に交付されているので、これも受給者証と一緒に管理し医療機関などの窓口で提出します。
病院や診療所での受診、薬局などでかかった医療費や薬代を支払っていき、ひと月のうちに支払った額が上限額に達した時点での医療機関による名前の記載と押印が必要となります。
④受給者証には有効期間や更新制度がある
受給者証が発行されたらそのままずっと期限なく使えるわけではありません。
受給者証の有効期間は原則1年で毎年、再認定申請(更新)の手続きが必要です。
更新の手続きは受給者証の有効期限が切れる3ヶ月前からできるようになっています。
さらに継続して精神通院医療を利用している場合には2年に1度、自立支援医療機関の医師が作成した診断書の提出が必要です。
この診断書も指定の様式を用いることになっているので注意しましょう。
おわりに
自立支援医療(精神通院医療)は精神科に継続して通院している人が、地域においてより自立して生活ができるように医療費の負担を軽減する制度です。
とくに、これから退院をして外来通院を続ける人や自宅で訪問看護を受ける人などにこのような制度があることをぜひ知っていただければと思います。
入院している人は退院をする際に病院のソーシャルワーカーなどから自立支援医療についての助言やアドバイスもあるはずです。
生活をともにする家族や地域医療を支える医療・福祉関係者も制度を理解し、支援が必要な人が自立支援医療を適切に受けられるよう、サポートできることが望ましいでしょう。
訪問看護ステーションのぞみも自立支援医療機関として指定されており、自宅で療養されている方やご家族の支援を開業当初より積極的に行なっております。
自立支援医療制度や精神科訪問看護などについて、ご質問などありましたらこちらよりお気軽にお問い合わせください。
訪問看護ステーションのぞみ
参考資料
厚生労働省「自立支援医療制度の概要」
厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)について」
群馬県「自立支援医療制度」
嬬恋村「自立支援医療(精神通院医療)」
長野原町「医療制度」
※写真はすべてイメージです。